大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和49年(オ)309号 判決 1974年7月12日

上告人

櫻井馨

外三名

右四名訴訟代理人

中嶋真治

馬場秀郎

被上告人

田崎う

外三名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人中嶋真治の上告理由について。

原審が適法に認定した事実関係のもとにおいて、本件土地賃貸借契約が賃借人である上告人櫻井馨の債務不履行を理由とする解除により終了した旨の原審の判断は正当であり、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

上告代理人馬場秀郎の上告理由について。

借地法六条一項の規定は、同条二項が賃貸人の異議について正当の事由があることを要件とする趣旨に照らし、みずからの債務を履行しない不誠実な賃借人を保護するためのものではなく、したがつて賃借人の債務不履行による土地賃貸借契約解除の場合には適用がないと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(吉田豊 岡原昌男 小川信雄 大塚喜一郎)

上告代理人中嶋真治の上告理由<省略>

上告代理人馬場秀郎の上告理由

原判決は判決に影響すべき法令の違背あり破棄さるべきである。

一、即ち原判決は借地法第六条の解釈を誤つている。

借地法第六条第一項は「借地権者借地権ノ消滅後土地ノ使用ヲ継続スル場合ニ於テ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看ナス」と規定し、借地人による使用の継続に基づく法定更新を規定している。

二、右規定は宅地の使用継続という客観的事実状態を基礎として、当事者の意思を強制してまで建物の敷地について適法な法律関係を成立せしめようとするものであつて、継続的利用関係を絶つことについて正当な事由を有する者は遅滞なく宅地の使用継続という事実状態そのものの終了を実現するために務めねばならず、若しこの努力を怠るときは、この事実状態を適法なものとして尊重するというのが右借地法第六条の法意である。

三、それ故、「借地権の消滅」というのは単に期限の満了によつて終了した場合のみならず、もつと広い一般的に消滅の場合を指しているのであつて、契約解除によつて消滅した場合をも当然包含せられている。(大判昭和九年九月一二日)

若しそうでないとするならば借地法第六条第二項の異議申述権の制限に同第四条但書を準用していることの意義が不明となると思料される。

四、本件についてこれを見るに、原判決は「借地人の債務不履行を理由として地主が契約を解除した場合には、同条の適用がないと解するのが相当である。」として上告人の主張を排斥した。右は明らかに借地法第六条第一項の解釈を誤つたものである。

原審の認定した事実によれば、被上告人が昭和二九年五月三一日付書面を以つて同年六月一〇日契約が解除したが、爾後昭和四一年四月五日本訴を本案とする仮処分をなすまで実に十二年の長期間に亘り、上告人の本件土地使用に対し何らの異議の申立もなされていない。従来の判例(大判・昭和三年一〇月三一日等)からして右異議が遅滞あるものであることは明らかである。

五、本件の如く借地関係という極めて生活に密着した事実関係の基礎となる社会事実において解除の意思表示をしながら一〇年以上も放任している場合には、地主の宥恕があつたもの即ち解除を撤回したものとするのが法の精神であると思われる。          以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例